dreamlike occurrence.





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もうすぐおれの18歳の誕生日がやってくる。
18歳って、何だかひとつの区切りって感じで憧れていた。
普免だって取れるし、結婚だってできる。最大の節目はやっぱりハタチなんだろうけど、その前に少しだけオトナになれるような気がして、おれは結構待ち遠しかった。
誕生日は8月8日。
『末広がりのハチ』がふたつも並ぶこの誕生日をおれは結構気に入っていたりする。人に教えても覚えてもらいやすい。ただ夏休み中だってことだけが昔から不満だった。

そう言えば優の誕生日も2月22日なんだっけな・・・
知り合って仲良くなって誕生日を教えあった時、お互いゾロ目の日だと笑いあった。おれたちふたりは、全くといっていいほど見かけも性格も違う。おれは世間一般の男子学生のように身長もそこそこあるし、ガタイもそれなりにいいほうだ。逆に優は小さくて細くてオンナみたいに華奢なカラダつきをしている。それを言うとムキになって怒るんだけれど。
性格だってまるで逆。おれは見てくれの割りに結構気弱だったりするんだけど、優は見かけよりもかなり芯が強い。
ふたりでいると、おれが優を操っているように見えて、その実おれは優にうまく御せられている・・・気がする。
でも、これほど気の置けるヤツはいないし、これからもきっと優以上にわかりあえる親友は現れないだろうと思う。
優は長年片思いだった三上先輩と紆余曲折の上結ばれた。片思いから始まったこの恋の一部始終を知っているおれは、心から喜んだ。想いが叶うまで約二年。様々なことが優を襲い、何度も泣いているのを見てきた。だからこそ、自分のことのようにうれしかったし、何よりもずっと想い続けていた優の一途さに脱帽した。
けれど・・・
三上先輩は、かっこいいし、オトコの優がホレるのも無理はないと思いつつも、心の隅っこでは、どうして同性を好きになるのか・・・疑問でもあった。
世の中には、オトコとオンナというふたつの性があって、異性が惹かれあうのが常識である。だから、婚姻だって異性間でしか認められていないのだ。
おれは生まれてこの方好きになったのは全部オンナだったし、優のこともかわいいと思うけれど、そんな対象に見たことはなかった。
かといって、それを否定するわけでもない。
海外では異性間での婚姻が認められている国もある。日本はまだまだそういった面で後進国であるけれど、結構そういう人たちは水面下にはたくさん存在していて、最近カミングアウトする人も多いようだった。
そのひとりが、三上先輩の親友で・・・目下のところおれの片思いの相手、崎山新之助だ。
崎山と知り合って、くったくのない性格と、時折垣間見える優しさに、どんどん惹かれていった。
オトコなんて好きにならないなんて勝手に決めつけていた心は、簡単に壊れ、認めてしまうと楽だった。
しかし、優がうまくいったからって、おれまでそうなるとは限らない。
惚れた欲目を除いても、崎山はいかにもオンナにモテそうなルックスと性格を兼ね備えていた。
育ちのよさそうな、上品な雰囲気を持っていて、見た目からは想像つかない関西弁で人を楽しませる。イヤミがなく、何をやってもスマートに見えてしまう。
こんなヤツがモテないわけがない・・・
おれは、自分のキモチを知られまいと、必死だった。
友人でいられたらそれでよかったから・・・
ところが、おれの演技が下手くそなのか、優は気付いていたようだった。
二ヶ月前の崎山の誕生会で・・・優にそれとなく聞かれておれは正直に告白した。
そして・・・崎山が・・・ゲイであるという事実を知ったのだ!
そのときのおれのオドロキといったら、表現のしようがない。
天からの贈り物、棚からボタモチ(ちょっと違うか)、とにかく神様がおれに味方してくれた!
だからといっておれの想いが成就するわけではない。しかしチャンスはあるってことだ。
自信過剰なわけでもないが、おれはあいつに嫌われてはいないと思う。かといって好かれているという自信はないけれど。
おれといると楽だって言ってたもんな・・・
そう!あいつはおれといると気楽だと言った。呼び出したらいつでもひょこひょこやってくる、便利なヤツだと思われていたら非常にツライが、どうやらそうでもないらしい。せっかくエスプレッソマシンをくれてやったのに、相変わらず突然おれを呼び出してはスタバだの新しいカフェだのにつき合わせる。
おれにはうれしいことなのだけれど・・・
どういうつもりでおれを誘うのか・・・知りたいけれど知るのが怖い、そんなモヤモヤした感情に、最近支配される。
この心地よい関係が壊れるのが怖いから、自分の感情を抑えてでも今を守ろうとする。
やっぱりおれって臆病なヤツなんだよな・・・
どうしようもない自分を嘲るしかなかった。






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